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信じられないというのと、信じたくないというのが半々。

―大嫌いだと思っていた背中が、こんなにも心地良いとは。


背中合わせの感覚



夏の暑い夜のこと。
留三郎と文次郎は、とある山道で敵(と思われる)の集団に包囲されていた。

どうしてこういうことになったかを簡単に説明しよう。
そもそもは2人が喧嘩をしているところに暇そうな老人、もとい学園長が通りかかったのが発端だった。

「おぬしらいつも喧嘩ばかりしているのぅ。 …ふぉふぉふぉ、そうじゃ、ちょうど良い!これから2人でこの密書を届けてきなさい」

「…学園長ッ!?」

「それから、自分一人で行く、というのは認めんぞ。これはおぬしらの協調性を養うためでもあるんじゃからのぅ」

ふぉふぉふぉ、という笑い声と密書を残し学園長が立ち去ったのが1日前。

徒歩で2日近くかかる届け先の城に、出発したのが今日の朝、 今は夜も更けてそろそろ今夜眠る場所を考えようと思っていた矢先に、 誰かにつけられている気配を察知し今に至っている。



「…どうする?」

敵襲に気付かぬふりをしたまま、小声で留三郎が問うのに対し、こちらも歩きを止めずに文次郎が答える。

「動きからして忍では無さそうだが…場合が場合だからな」

「これか…」

懐にある密書を軽く抑えつつ、留三郎は少しずつ近づいて来る集団に神経を集中させた。
隣で歩調を変えずに歩いている文次郎も同じように戦闘に備えているらしく、その双眸に鋭い光を湛えている。

そして山中からの気配がいよいよ近くなり、緊張が高まったそのとき。

ざざ…ざざざざっ!

「おいお前らァ!命が惜しけりゃおとなしくしなッ!!」

静寂を破って現れたのは、薄暗い月明かりの下で見ても明らかに山賊といった風体の男達。 それぞれに槍や刀を持っているが、やはり忍者の訓練を積んだ者には見えない。

(いち、に、さん…6人か)
ただの山賊6人ならいけるだろう、と文次郎が考えていると、

「…目的はこれか?」

留三郎が懐から財布を取り出し地面に放った。

(お前!)
(うるせぇ!)

簡単な矢羽音で2人が言い争うのをよそに、山賊の下っ端らしい男が財布を拾い上げ頭と思しき男に渡す。

「へぇ、ガキのくせに結構持ってんじゃねぇか。しかしあっさり財布を出すとは… その荷物あやしいな…おい、野郎ども!」

「へい!」

返事とともに山賊達が2人に襲いかかり、背負った荷物などを引っ剥がそうとしだした。

(ちっ…!)
(やっぱりこうなるんじゃねぇか!)

「何だァ?コレ。変なもんばっか入ってやがるな」

荷物を漁っていた男達から残念そうな声が上がる。そして、抵抗が無いので少し油断していた瞬間。

「変なもんじゃねぇ!これはこうやって使うんだよッ!!」

どごっ!!

鈍い音がして男達の1人がくずおれた。
留三郎が男達から一瞬の隙をついて取り返した荷物、いや―鉄双節棍を男の首元に叩き込んだのである。

「なにしやがるてめぇ!」

ばきっ!!

立ち上がって再び襲いかかろうとする男が今度は後ろに吹っ飛んだ。

「まったく…これなら最初からこうしてれば良かったんじゃねえか、このヘタレが」

「うるせえ、一応目的が何か聞いとこうと思ったんだよ」

見事な回し蹴りを放った文次郎が悪態をつきつつ体勢を整える。
それに応えながら留三郎も次の攻撃に備え身構えた。

お互いそっぽを向く構えが、自然と互いの背中を守る格好になる。


「ええい、野郎ども、もういいやっちまえ!!」

「おう!!」

その言葉を合図に2人に襲いかかる山賊達。

右、左、前、右、
次々と繰り出される刀や槍をすれすれでかわし、隙をついて双節棍を叩き込む。

闇の中、月の光に閃く白刃。すぐ側にある死。それを意識せずにはいられないのに、 恐いくらいに冴え渡った空気の中で留三郎は自分が今までにないくらい生き生きとしていることに気付いた。

何故だろう、負ける気がしない。
まるで―


「留三郎!」

文次郎の声に応えて反射的に体が動く。左から来た敵の槍を絡め取って突き返す。 同時に文次郎は右から斬りかかってきた男の刀を払い落とし鳩尾に拳を入れる。

言葉にするまでもなく、背後の文次郎の動きがわかる気がした。それは、いつもの喧嘩のおかげで闘い方の癖を 熟知しているからだろうか。
…そうに違いない。そうでもなければこんなこと。

考えるのも鬱陶しい。
ただ、今は、体が軽くてしょうがない。


(まるで――
   お前がおれの
      おれがお前の
         ――半身みたいだ)



「お、覚えてろよーッ!!」

お手本のような捨て台詞を吐いてボロボロになった山賊達が逃げていく。

「…ったく、本当にただの山賊とは」

任務が無ければふん縛って説教してやるところだが、などと言いながら文次郎は散らばった荷物を拾う。

「ほらコレ、お前のだろう。…ってどうした?」

見れば留三郎は鉄双節棍を持ったまま、虚空を見つめて突っ立っている。

「今頃怖くなって足が動かないのかこのヘタレ」

「んなわけねぇだろう!」

「じゃあさっさと行かねぇか。ホラ荷物だ」

ぶっきらぼうに突き出した差し出された荷物を留三郎が受け取る。そしてふと文次郎の顔を見た。

「どうしたんだ、何か言いたいことでもあるのか?」

「……ありがとな」

普段聞き慣れない言葉に一瞬反応に詰まる。

「……………何だ急に気持ち悪い」

「気持ち悪いって何だ、人が素直に感謝してやってるのにッ!!」


後はもういつも通りで。

掴み合って喧嘩したら、隠してたさっきの戦闘の傷跡がお互いに見つかって、 応急処置をしたら包帯が足りなくて喧嘩して、ついでに野宿するか宿に泊まるかで喧嘩して…… なんてことはまた別の話。




おまけ:同日深夜某所

学園長「で、2人はどうじゃった?」

山賊頭「いやぁなかなか筋が良いと思いますよ。戦ってるときは息もぴったりでしたし …問題無いんじゃないですか?」

学園長「そうかそうか、息ぴったりか、ワシの目に狂いは無かったのう。 これをきっかけに少しは喧嘩も控えてくれるといいんじゃが」

山賊頭「しかし学園長先生も人が悪いですよ、密書なんて嘘なんでしょ?一体中には何が書いてあるんです」

学園長「ふぉふぉふぉ、新しい団子屋が出来たんで一緒に食べに行ってくれる友達が欲しくてな」

山賊頭「まったく、恐いお人だ」

学園長「ふぉふぉふぉ…」



終。

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えーっと、学園長先生がたぬきじじいです(笑)。とぼけたふりして全て計算だったらすごいよね、ってお話 。ちなみに山賊達は実は学園の卒業生(の変装)だったりして。
あ、でも忍じゃないっぽいこと最初に書いちゃったな…ま、そのあたりも演技ってことで(←無計画)!

…って本題は留文の話なのに学園長の話から始まってしまいましたが。

留文っていうか留→文の始まりみたいな…?つまりは背中合わせで闘う2人が書きたかったわけです、はい。

割と文次郎がギンギンしてませんでしたね…。ある意味留三郎のがしてたかも(笑)。

留三郎って普段常識人っぽいけど、戦闘状態に置かれると、 闘うことが楽しくて仕方ない感じだといいなぁと思ってました。

逆に文次郎は戦闘状態の方が冷静な気がする…。何でだろ。

まぁそんな2人が喧嘩しながらも信頼してるシチュエーションが大好きですってことで!(無理矢理終わる)